物理的宇宙

物理学を自分なりに再構成することを目指すブログです

ブラケット記法と双対空間

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ブラケット記法を定義する。ブラケット記法の精神を尊重して、ベクトル空間にはじめから内積構造を与えるのではなく、双対構造から出発する。

複素ベクトル空間

複素ベクトル空間\mathcal{H}を考える。

この時点では内積構造は考えない。

ベクトルを|\psi\rangleなどと書く。これをケットベクトルという。\psiはベクトルを区別するためのラベルである。

線型汎函数

線型汎函数\mathcal{H}→\mathbb{C}を考える。これを\langle \phi|などと書くことにし、引数の括弧を省略する記法\langle \phi|(|\psi\rangle)=\langle \phi|\psi\rangleを用いる。

線型汎函数というのは、\langle\phi|(a|A\rangle+b|B\rangle)=a\langle\phi|A\rangle+b\langle\phi|B\rangle

が成り立つという意味である。ここでa,bは任意の複素数

線型汎函数全体の集合を双対空間と呼んだりする。

 

線型汎函数自体に和とスカラー倍などが定義できるので、双対空間もまた別のベクトル空間と見做せる。双対空間を\mathcal{H}^*などと書く。

和の定義:(\langle a|+\langle b|)|\psi\rangle\equiv\langle a|\psi\rangle+\langle b|\psi\rangle

スカラー倍の定義:(\langle A|a)|\psi\rangle\equiv a\langle A|\psi\rangle

ゼロベクトルの定義:0|\psi\rangle\equiv0

(逆ベクトルは-1倍で定義される。)

これらの定義がベクトル空間の公理を満たすことは明らかである。

線型演算子

ケットベクトルを別のケットベクトルに変換する写像で、線形のものを線形演算子といい、\hat{A}などとハットをつけて書く。これも

\hat{A}(|\psi\rangle)=\hat{A}|\psi\rangle

と略記する。

これのブラベクトルに対する作用も定義することができる。ブラベクトルに対しては右から作用するという書き方をする。

\langle a|\hat{A}\equiv\langle a|\circ\hat{A}

ここで\circとは合成関数という意味である。このような定義で右辺が確かにケットに作用する線型汎函数として機能することがわかる。この定義が便利なのは以下の結合法則が成り立つからだ

(\langle a|\hat{A})|\psi\rangle=\langle a|(\hat{A}|\psi\rangle)

従ってこれら二つを区別せず

\langle a|\hat{A}|\psi\rangle

と書ける。ブラケット記法の最大の長所はこの結合法則だ。

ブラとケットによる線形演算子

ブラとケットを組み合わせて|\psi\rangle\langle\phi|という演算について考える。これを線形演算子として定義する。

(|\psi\rangle\langle\phi|)(|\alpha\rangle)\equiv\langle\phi|\alpha\rangle|\psi\rangle

このように自然に線形演算子として理解できる。この演算子の線形性は明らかである。これもブラケット記法の長所である。

 

さらにこれをブラ\langle\alpha|に対して右から作用させると、

\langle\alpha|\psi\rangle\langle\phi|

であるため、これも自然である。なぜなら、\hat{A}をこの演算子としてみなすと結合法則から、

(\langle a|\hat{A})|\beta\rangle=\langle a|(\hat{A}|\beta\rangle)=\langle a|(|\psi\rangle\langle\phi|\beta\rangle)=\langle a|\psi\rangle\langle\phi|\beta\rangle

となる。つまり|\beta\rangle\langle\alpha|\psi\rangle\langle\phi|を作用させたことになるからである。