ブラケット記法を定義する。ブラケット記法の精神を尊重して、ベクトル空間にはじめから内積構造を与えるのではなく、双対構造から出発する。
複素ベクトル空間
複素ベクトル空間を考える。
この時点では内積構造は考えない。
ベクトルをなどと書く。これをケットベクトルという。はベクトルを区別するためのラベルである。
線型汎函数
線型汎函数:を考える。これをなどと書くことにし、引数の括弧を省略する記法を用いる。
線型汎函数というのは、
が成り立つという意味である。ここでa,bは任意の複素数。
線型汎函数全体の集合を双対空間と呼んだりする。
線型汎函数自体に和とスカラー倍などが定義できるので、双対空間もまた別のベクトル空間と見做せる。双対空間をなどと書く。
和の定義:
スカラー倍の定義:
ゼロベクトルの定義:
(逆ベクトルは-1倍で定義される。)
これらの定義がベクトル空間の公理を満たすことは明らかである。
線型演算子
ケットベクトルを別のケットベクトルに変換する写像で、線形のものを線形演算子といい、などとハットをつけて書く。これも
と略記する。
これのブラベクトルに対する作用も定義することができる。ブラベクトルに対しては右から作用するという書き方をする。
ここでとは合成関数という意味である。このような定義で右辺が確かにケットに作用する線型汎函数として機能することがわかる。この定義が便利なのは以下の結合法則が成り立つからだ
従ってこれら二つを区別せず
と書ける。ブラケット記法の最大の長所はこの結合法則だ。
ブラとケットによる線形演算子
ブラとケットを組み合わせてという演算について考える。これを線形演算子として定義する。
このように自然に線形演算子として理解できる。この演算子の線形性は明らかである。これもブラケット記法の長所である。
さらにこれをブラに対して右から作用させると、
であるため、これも自然である。なぜなら、をこの演算子としてみなすと結合法則から、
となる。つまりにを作用させたことになるからである。