物理的宇宙

物理学を自分なりに再構成することを目指すブログです

密度演算子の定義と純粋状態への分解の非一意性

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密度演算子の定義

純粋状態\hat{P}_iが確率p_iで含まれているアンサンブル\{(\hat{P}_i,p_i)\}_{i=1,2,..n}を混合状態という。ただし0\leq p_i\leq 1であり、\sum_ip_i=1とする。この混合状態に対して、密度演算子

\hat{\rho}\equiv\sum_ip_i\hat{P}_i

と定義する。

このように、混合状態に対して密度演算子が定義される。この演算子から、アンサンブルの統計的量が引き出せることはのちに確認する。密度演算子は、混合状態をうまく表現するが、逆に密度演算子からアンサンブルを\{(\hat{P}_i,p_i)\}_{i=1,2,..n}の形で復元するやり方は一意的ではないことも後で確認する。

密度演算子の数学的性質

エルミート性

密度演算子はエルミート演算子である。これは\hat{\rho}=\sum_ip_i\hat{P}_iの形から明らか。

トレース

密度演算子のトレースは1である。

【証明】

Tr(\hat{\rho})=Tr(\sum_ip_i\hat{P}_i)=\sum_ip_iTr(\hat{P}_i)=\sum_ip_i=1

二乗トレース

密度演算子の二乗のトレースは1以下である。

【証明】

ここで

\hat{\rho}=\sum_ip_i\hat{P}_i

\hat{P}_iは必ずしも互いに直交していないことに注意する必要がある。

二つの純粋演算子の積のトレースの不等式

Tr(\hat{P}_i\hat{P}_j)\leq 1

を用いれば

Tr(\hat{\rho}^2)\\=Tr((\sum_ip_i\hat{P}_i)^2)\\=\sum_i\sum_jp_ip_jTr(\hat{P}_i\hat{P}_j)\\ \leq \sum_i\sum_jp_ip_j\\=(\sum_ip_i)^2\\=1

対角成分

\langle\psi|\hat{\rho}|\psi\rangle\geq 0

【証明】

\langle\psi|\hat{\rho}|\psi\rangle\\=\langle\psi|\sum_ip_i\hat{P}_i|\psi\rangle\\=\sum_ip_i\langle\psi|\hat{P}_i|\psi\rangle\\=\sum_ip_i|\langle\psi|P_i\rangle|^2\\ \geq 0

ただし

\hat{P}_i=|P_i\rangle\langle P_i|

とした。

密度演算子の純粋状態への分解の非一意性

密度演算子\hat{\rho}が与えられたとき、元のアンサンブルとしてありうるのは必ずしも1通りではない。

【証明】

一つの例を出せば十分である。

直交する二つの単位ベクトル|0\rangle,|1\rangleによって張られる二順位系について考える。もう一組の基底として

|+\rangle\equiv(|0\rangle+|1\rangle)/\sqrt{2},|-\rangle\equiv(|0\rangle-|1\rangle)/\sqrt{2}

を定義しておく。加えて

|\psi\rangle\equiv\cos(\frac{\pi}{12})|0\rangle-sin(\frac{\pi}{12})|1\rangle

とする。

密度演算子

\hat{\rho}\equiv\frac{1+\frac{1}{\sqrt{3}}}{2}|0\rangle\langle0|+\frac{1-\frac{1}{\sqrt{3}}}{2}|1\rangle\langle1|

|0\rangle\langle 0|,|1\rangle\langle 1|が確率\frac{1+\frac{1}{\sqrt{3}}}{2}\frac{1-\frac{1}{\sqrt{3}}}{2}で存在するアンサンブルに対応する密度行列だが、同時に

\hat{\rho}=\frac{1}{3}|+\rangle\langle+|+\frac{2}{3}|\psi\rangle\langle\psi|

でもあるため、\hat{\rho}は、|+\rangle,|\psi\rangleが確率\frac{1}{3},\frac{2}{3}で存在するアンサンブルに対応する密度行列でもある。ゆえに一般には密度演算子からアンサンブルは一意に定まらない。

密度演算子の直交分解の一意性

密度演算子を直交する状態のアンサンブルとして解釈するやり方は一意的である。ただし、同じ確率のm個の直交する状態が出てきた際は、それらが張る空間のどの正規直交基底をとるかについては不定性が残っても良いとする。

【証明】

密度演算子がエルミート演算子であることから、

\hat{\rho}=\sum_iq_i\hat{Q}_i

と分解できる。ここで\{\hat{Q}_i\}_iは互いに直交する純粋演算子とすることができる。縮退していない固有値q_iに対して\hat{Q_i}は一意で、縮退している固有値に対しては任意性がある。

\langle\psi|\hat{\rho}|\psi\rangle\geq 0がそれぞれの固有ベクトルについて成り立っているから、固有値q_iは全て非負実数である。さらに、Tr(\hat{\rho})=1であるから、\sum_iq_i=1であり、0\leq p_i\leq 1だ。よってこれはアンサンブル\{(\hat{Q}_i,q_i)\}_{i=1,2,..n}の密度演算子であり、縮退している固有値の純粋状態以外の選び方については一意的だ。