密度演算子の定義
純粋状態が確率で含まれているアンサンブルを混合状態という。ただしであり、とする。この混合状態に対して、密度演算子を
と定義する。
このように、混合状態に対して密度演算子が定義される。この演算子から、アンサンブルの統計的量が引き出せることはのちに確認する。密度演算子は、混合状態をうまく表現するが、逆に密度演算子からアンサンブルをの形で復元するやり方は一意的ではないことも後で確認する。
密度演算子の数学的性質
エルミート性
トレース
密度演算子のトレースは1である。
【証明】
二乗トレース
密度演算子の二乗のトレースは1以下である。
【証明】
ここで
のは必ずしも互いに直交していないことに注意する必要がある。
二つの純粋演算子の積のトレースの不等式
を用いれば
対角成分
【証明】
ただし
とした。
密度演算子の純粋状態への分解の非一意性
密度演算子が与えられたとき、元のアンサンブルとしてありうるのは必ずしも1通りではない。
【証明】
一つの例を出せば十分である。
直交する二つの単位ベクトルによって張られる二順位系について考える。もう一組の基底として
を定義しておく。加えて
とする。
密度演算子
はが確率、で存在するアンサンブルに対応する密度行列だが、同時に
でもあるため、は、が確率で存在するアンサンブルに対応する密度行列でもある。ゆえに一般には密度演算子からアンサンブルは一意に定まらない。
密度演算子の直交分解の一意性
密度演算子を直交する状態のアンサンブルとして解釈するやり方は一意的である。ただし、同じ確率のm個の直交する状態が出てきた際は、それらが張る空間のどの正規直交基底をとるかについては不定性が残っても良いとする。
【証明】
と分解できる。ここでは互いに直交する純粋演算子とすることができる。縮退していない固有値に対しては一意で、縮退している固有値に対しては任意性がある。
がそれぞれの固有ベクトルについて成り立っているから、固有値は全て非負実数である。さらに、であるから、であり、だ。よってこれはアンサンブルの密度演算子であり、縮退している固有値の純粋状態以外の選び方については一意的だ。