量子相対エントロピーの定義と性質について。
量子相対エントロピーの定義
量子相対エントロピーと古典相対エントロピーの関係
密度演算子は一意的に直交分解できる。
これはアンサンブルと解釈できる。
これと同じ純粋完全系でに対して基底測定すると、確率分布は
である。すると量子相対エントロピーは、確率分布pとq’の古典相対エントロピーと以下のような関係がある。
証明
とする。は正規直交基底である。σについても同様に
と直交分解し、
とする。は正規直交基底である。
まず、定義の第二項を計算する。トレースは基底を使って計算すると、
...①
は、
である。ゆえに対数関数の上に凸性より
これと①から、
量子相対エントロピーと古典相対エントロピー(カルバック・ライブラー情報量)の対応はこのように不等式でしかない。しかも、q'はあくまでもpを対角化させる基底で測定した時の確率分布でしかない。その基底とは別の規定で測定するなら異なった確率分布が得られるので、実際はq'によってσの確率分布を表現したとは言えない。その意味でも古典的な相対エントロピーと量子相対エントロピーの対応関係は怪しいものになる。
量子相対エントロピーの非負性
量子相対エントロピーは非負である
証明
古典相対エントロピーの非負性と、前節の対応関係から明らかである。
量子相対エントロピーとフォンノイマンエントロピーの変化
証明
故に
情報利得としての量子相対エントロピー
相対エントロピーは情報をどれほど得られるかの目安になり、「情報利得」と呼ばれることもある。そこで、本当に情報利得と見做せるのかを考えてみる。
状態を測定した結果となったとする。
測定によって情報を得た結果、エントロピーが減少する場合がある。その減少量は
である。系について無知であればあるほどエントロピーは大きいので、これは測定による系についての知識の増加量とみなすことができる。これは
なので、確かに相対エントロピーで上から抑えることができる。だが不等式でミスバレているにすぎない。相対エントロピーはなぜ情報利得と呼ばれているのだろうか。もしかすると、古典相対エントロピーだけが情報利得なのであり、量子相対エントロピーは情報利得ではないのかもしれない。