熱力学第二法則を証明し、時間の矢とマクスウェルの悪魔の問題を解決します。
ステートメント
断熱過程を経る前後で比較すると、系の熱力学的エントロピーは増大するか変化しないかのいずれかである。
証明
まず、断熱過程の初期状態における密度演算子を
とする。このとき熱力学的状態なので、熱力学的エントロピーはフォンノイマンエントロピーと一致する。
...①
密度演算子はハミルトニアンの元でシュレディンガー方程式に従って時間発展し、初期状態から終状態への変換は(ハミルトニアンが時間依存していても)ユニタリ変換であるため、最終時点でのフォンノイマンエントロピー[tex:S_{VN.fin'}]は初期状態から変化しない。
...②
熱力学的過程の最終ステップとして、終状態は最大エントロピー状態に書き換えられる(fin'→fin)。このことによって、終状態の熱力学的エントロピーは
...③
である。①、②、③より
が示された。
時間の矢
時間には過去から未来へ向か卯という特定の方向があるというのが一般的な感覚である。この方向性を時間の矢と呼ぶ。古典的あるいは量子的な力学の法則にはそのような時間の矢は存在しないから、時間の矢の物理的な唯一の根拠はこのエントロピー増大の法則である。エントロピーが増大する方向が未来であるというわけだ。
ところが、この証明を見れば分かる通り、不等式の由来は熱力学的状態を最大エントロピー状態としてみなすというプロセスの最終ステップである。この最終ステップは、系以前の状態を忘却し、現在の平均エネルギーとハミルトニアンが同じ系を同じ熱力学的状態であるとみなす同一視(粗視化)である。これは確かに簡潔な方法であり有用だが、あくまでも人工的な約束であり、自然の本質ではない。人間や文明の記憶力の弱さこそ根本原因だ。やはり自然界に絶対的な時間の方向は存在しないのだ。
マクスウェルの悪魔
マクスウェルの悪魔のパラドックスにおいては悪魔が系を測定する。当ブログの体系において、測定する過程は断熱過程と見做さないので、エントロピーは減少しても良い。故に矛盾は解決される。
例えば悪魔が系の全体のエネルギーを理想測定すれば、系はエネルギー固有状態になるため、フォンノイマンエントロピーは0となる。従って証明における②が成立しない。系の部分的な測定だったり、理想測定ではなくても、エントロピーが減少しうることは明らかである。