物理的宇宙

物理学を自分なりに再構成することを目指すブログです

量子論の不完全性と非決定論

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量子論には二つの意味で不完全性が存在します。これらと、量子論が非決定論かどうかの議論を考えます。

量子論の第一の不完全性

量子論の第一の不完全性は、「量子状態は測定していない時のことについては何も言及しない」ということです。

量子状態は、あくまでも測定した瞬間の状態のことを表します。

ハイゼンベルク描像で考えます。

時刻tにおいて位置がxであったことが観測された時、量子状態は|x,t\rangleと表されます。これはTだけ時間が経って時刻がt+Tになっても変化しません。

これは量子状態が測定の瞬間のことにしか言及しないからです。

シュレディンガー描像は時間と共にベクトルが変化しますが、それは以前の観測の結果を現在の時間における対応する測定結果に変換しているだけだと考える必要があります。そうしない限り、パラドクスが発生するからです。

量子論の第二の不完全性

量子論の第二の不完全性は、量子(純粋)状態が測定の瞬間についてすら系の完全な情報を含んでいるとは限らないということです。

 

【証明】

純粋状態が系の完全な情報を含んでいると仮定しましょう。

混合状態は純粋状態のアンサンブルですから、系の情報が幾分か欠落していることになります。

他方で、(純粋状態である)エンタングル状態の部分系は混合状態であるということが知られています。従ってエンタングル状態は系の一部分についてすら情報の欠落が存在することになる。ならばエンタングル状態は当然全体としても情報が欠落していることになります。これは矛盾しています。

従って純粋状態であっても系の完全な情報を含んでいるわけでは一般にはない。

量子論は非決定論とは限らない

量子状態の第二の不完全性から、量子論は非決定論とは限らないということがわかります。

 

決定論とは、「現在の状態が完全にわかっていれば未来の状態も完全にわかる」、というものです。

 

ところが、第二の不完全性により、測定によって量子状態がわかったとしても、その時の系の完全な状態がわかっているとは限りません。現在の状態が完全にわかっていないのであれば、未来が確率的にしか予言できないとしても、ある意味では当然とも言えますよね。従ってこの世界が決定論ではないとは必ずしも言えないのです。

 

もちろん、量子論が非決定論である可能性もあります。しかし、量子論が正しいとしても非決定論の証拠とはならないのです。

 

ですが、ベルの不等式の破れを実証したアスペの実験により、局所的な性質を持つ決定論は反証されています。局所性はこの世界の根本的な性質であると考えられているため、この世界が非決定論であることは間違いないと考えられています。私もそう考えます。