物理的宇宙

物理学を自分なりに再構成することを目指すブログです

熱力学的状態

←熱力学と統計力学

量子論に基づいて、熱力学的状態の定義と分類、熱力学的エントロピーの定義について述べる。

熱力学的状態

熱力学的状態とは、

の組(\hat{H},E)である。

この二つだけで量子状態を特定することはできないが、この二つが同じ状態を全て同一視するというのが熱力学の理論の肝心な点である。

 

このような同一視は人工的な約束であり、自然界に内在する原理ではないことに注意する。この約束のもとで展開される理論が有用である条件は、この約束によって同一視される数多くの量子状態(真の状態)の圧倒的多数に共通する性質が存在していることだ。これは熱力学が正当化される条件ではない。どんなに違っている2つのものでも、それを同じカテゴリーに含めることは自由だからだ。それらに共通点が乏しいならば、役に立たないだけだ。

 

熱力学的な同一視が有用な典型的ケースは、系を十分長い時間放置することによってマクロに見て変化しない平衡状態に緩和する場合だ。孤立系が平衡状態に緩和することを公理として認める立場もあるが、真空中の理想的な単振り子の例などの反例がある。確かに実際の単振り子などといった調和振動子はいずれ摩擦などによって平衡状態に緩和するが、最も単純な力学モデルである調和振動子が反例になってしまうと、理論的には混乱が大きくなる。あくまでも平衡状態への緩和は熱力学的同一視が有用である条件とみなすべきであり、そうでない場合も理論展開の上で矛盾はないとするべきだ。

最大エントロピー原理

(\hat{H},E)というように、系の一部分の情報だけがわかっている場合(他の情報は全て忘却してしまう)の状態は、情報理論的にはその条件の下での最大エントロピー状態(最小の情報を含む状態)によって表すことができる。この原理を最大エントロピー原理という。ここでいうエントロピーフォンノイマンエントロピー

S_{VN}\equiv -k_Btr(\hat{\rho}\ln(\hat{\rho}))

のことをいう。

最大エントロピー状態が(\hat{H},E)のみから一意に定まるかは不明だが、これ以降、一意に定まると仮定する。少なくともエネルギーの上限または下限が存在することは必要だ。なぜなら上限も下限もないとすると、いくらでも大きなエントロピーの状態を作ることができるからだ。だがエネルギーの下限が存在することは物理的な要請として量子論の側としても当然必要なものなので、これは成り立っているとする。

ここでは密度演算子に対するフォンノイマンエントロピーを用いて定義したが、古典力学を前提とする場合も、位相空間の確率分布に対する連続系のシャノンエントロピーを用いて同様に定義できる。その場合も一意性については仮定しておく。

熱力学的エントロピー

熱力学的エントロピーとは上記で述べたような熱力学的状態に対する最大エントロピーのことをいう。すなわち

S_{th}(\hat{H},E)\equiv\underset{Tr(\hat{\rho}\hat{H})=E}{\max}S_{VN}(\hat{\rho})

エントロピー表示の基本関係式

ハミルトニアンが幾つかのパラメーター\{X_i\}_{i=1,2,...n}に依存している場合を考える(体積や粒子数は、このようなハミルトニアンのパラメータとして扱うことができる)。

\hat{H}(X_1,X_2,...,X_n)

この時、ハミルトニアンのパラメーター依存性\hat{H}(・,・,...,・)がわかっているならば、熱力学的エントロピーは、定義より、エネルギーとこれらのパラメーターで決定される。

S_{th}=S_{th}(E,X_1,X_2,...X_n)

これをエントロピー表示の基本関係式という。