物理的宇宙

物理学を自分なりに再構成することを目指すブログです

射影演算子

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射影演算子の説明をする

射影演算子の定義

射影演算子とは二乗すると元に戻る線形演算子のことである。

\hat{P}^2=\hat{P}

直交射影演算子の定義

直交射影演算子とは、エルミートであるような射影演算子のことをいう。

ランク1の射影演算子:純粋演算子

当ブログではランク1の直交射影演算子を「純粋演算子」と呼ぶことにする。これは当ブログの造語だが、ランク1の直交射影演算子を密度演算子として見ると純粋状態なので、純粋演算子と呼ぶことにする。すでにふさわしい呼び方を知っている方は教えてほしい。

 

演算子Pが純粋演算子である必要十分条件は、規格化されたベクトル|ψ>が存在して

\hat{P}=|\psi\rangle\langle\psi|

と書けることである。

証明

Pが純粋演算子である→\hat{P}=|\psi\rangle\langle\psi|(\psi\rangleは規格化されている)について

ランク1であるならば、Pの像空間の次元が一次元であるということから、その像空間に属する任意の規格化されたベクトル|\psi\rangleを使って、Pを\hat{P}=|\psi_0\rangle\langle\phi|の形で書くことができる。

Pが射影演算子であることから、

|\psi\rangle\langle\phi|=\hat{P}=\hat{P}^2=\langle\phi|\psi\rangle|\psi\rangle\langle\phi|

ゆえに

\langle\phi|\psi\rangle=1...①

さらに、Pがエルミートであることから、

|\psi\rangle\langle\phi|=|\phi\rangle\langle\psi|

である。両辺に右から|\psi\rangleを作用させると

|\psi\rangle\langle\phi|\psi\rangle=|\phi\rangle\langle\psi|\psi\rangle

|\psi\rangleが規格化されていることと、①から、

|\psi\rangle=|\phi\rangle

ゆえに

\hat{P}=|\psi\rangle\langle\psi|

である。

\hat{P}=|\psi\rangle\langle\psi|(\psi\rangleは規格化されている)→Pが純粋演算子について

左辺の条件から、Pはランク1であり、P^2=Pが成り立ち、Pがエルミートであることはすぐにわかる。ゆえにPは純粋演算子である。

 

ベクトルの位相を変えてもPは変化しないから、位相は任意に選べる。つまり射影演算子ヒルベルト空間の射線と全単射で対応している。このことは位相の不定性を気にせず量子状態を記述するのに都合が良いが、今の時点では純粋演算子は単なる数学的用語としておく。

射影演算子の直交について

射影演算子PとQの積が0になるときPとQが直交すると定義することにする。

\hat{P}⊥\hat{Q}\Leftrightarrow\hat{P}\hat{Q}=0

これも当ブログの造語だが、もしかすると違う用語がすでに存在するかもしれない。その場合はコメント欄にて教えてほしい。

純粋完全系

純粋完全系の定義

純粋演算子の集合\{\hat{P}_i\}_iであって、その和が恒等演算子であるもの、すなわち完全性関係

\sum_i\hat{P}_i=\hat{1}

を満たすものを、純粋直交系ということにする。これも当ブログ独自の用語である。

純粋完全系と正規直交基底

ステートメント

与えられた正規直交基底\{|e_i\rangle\}_iに対して\hat{P}_i=|e_i\rangle\langle e_i|とすれば純粋直交系\{\hat{P}_i\}_iを作ることができる。

逆に、与えられた純粋完全系に対して\hat{P}_i=|e_i\rangle\langle e_i|とすれば正規直交系\{|e_i\rangle\}_iを作ることができる。

証明

まず前者の証明をする。正規直交基底\{|e_i\rangle\}_iに対して\hat{P}_i=|e_i\rangle\langle e_i|とすれば各\hat{P}_iは純粋演算子である。さらに任意のベクトル|\psi\rangle|\psi\rangle=\sum_j\psi^j|e_j\rangleと展開しておくと、

\sum_i\hat{P}_i|\psi\rangle\\=\sum_i|e_i\rangle\langle e_i|\sum_j\psi^j|e_j\rangle\\=\sum_i\sum_j\psi^j|e_i\rangle\langle e_i|e_j\rangle\\=\sum_i\sum_j\psi^j|e_i\rangle\delta_{i,j}\\=\sum_i\psi^i|e_i\rangle\\=|\psi\rangle

だから\sum_i\hat{P}_i=\hat{1}を満たし、純粋直交系である。

 

次に後者(この逆)を示す。

与えられた純粋完全系に対して\hat{P}_i=|e_i\rangle\langle e_i|...①とする。

\sum_i\hat{P}_i=\hat{1}...②は、

\sum_i|e_i\rangle\langle e_i|=\hat{1}...②'と書ける。

すると任意のベクトル|\psi\rangleにこれらを作用させることで

\sum_i|e_i\rangle\langle e_i|\psi\rangle=|\psi\rangle

従って任意のベクトルを\{|e_i\rangle\}_iの線型結合で表せているので、これは全域性(ベクトルの組が空間全体を張ること)を満たす。

さらに考えているベクトル空間の次元をNとすると

②:\sum_i\hat{P}_i=\hat{1}

の両辺のトレースは

tr(\sum_i\hat{P}_i)=tr(\hat{1})=Nである。

他方でPは純粋演算子なので

tr(\hat{P}_i)=1

である。このこととトレースの線形性から、\{|e_i\rangle\}_iの要素数はベクトル空間の次元Nである。このことと全域性を合わせると、\{|e_i\rangle\}_iは線型独立であり、従って基底をなす。

あとはこれらが互いに直交することを示せば良い。まず任意のベクトル|\psi\rangle|\psi\rangle=\sum_j\psi^j|e_j\rangleと展開し、②'に代入すると、

|\psi\rangle\\=\sum_i|e_i\rangle\langle e_i|\sum_j\psi^j|e_j\rangle\\=\sum_i(\sum_j\psi^j\langle e_i|e_j\rangle)|e_i\rangle

すると基底の展開係数の一意性から、

\psi^i=\sum_j\psi^j\langle e_i|e_j\rangle

でなければならない。任意の\psiに対してこれが成立するためには、

\langle e_i|e_j\rangle=\delta_{i,j}

が成り立たなければならない。すなわち\{|e_i\rangle\}_iは正規直交系である。

純粋完全系の直交性

純粋完全系の相異なる元は直交する。すなわち\hat{P}_i\hat{P}_j=\delta_{i,j}\hat{P}_i

これは、前節の内容から明らかである。